キング・クリムゾン26枚組『The Complete 1969 Recordings』を入手。1969年にこだわった多くのコンテンツ中、最大の関心事であるドルビーアトモス版『宮殿』を真っ先に鑑賞した。
このBOXに入っているディスク26枚中、4枚がブルーレイ。そのブルーレイの4枚目、全体を通しで数えるとディスク24に1stアルバムのDolby Atomos版が収録されている。
自分にとってこのアルバムといえば長らく2009年の5.1chサラウンドミックス版だった。久々のアップデートだ。
うちのスピーカー構成はドルビーアトモス5.1.2で、天井スピーカーは頭上やや前方に配置されたトップミドル。これが今回どのような効果を発揮するのか、を中心に感想を語っていきたい。
In The Court Of The Crimson King
2020 Dolby Atmos Mix by Steven Wilson
1.21st Century Schizoid Man
2.I Talk To The Wind
3.Epitaph
4.Moonchild
5.The Court Of The Crimson King
まずは1曲目、
『21世紀のスキッツォイド・マン』
冒頭のノイズのゾワーっと来る臨場感や歌い出しの部分のカッティングが前後左右に移動、などは従来のサラウンドを踏襲。しばらくはそんな感じ。だが音の粒立ち、各楽器の分離、音質のクリアーさが秀逸。特にスネア、タム、バスドラ、ベースの聴こえ方が飛びぬけて良い。スティーヴン・ウイルソンはこのヴァージョンを作るにあたって、ひとつひとつの音を丹念にブラッシュアップし帯域バランスを極める作業をやり遂げたに違いない。
そして遂に、中間パートでのフリップのロングトーンでのソロ!最初はあらぬ方向からギターが聴こえてくるぞ?という印象だったがこれは頭上を旋回するように鳴り響いていて、確実に上からの音を意識させられた。さらにラストのフリーパートで一度静まってからのギターのガチャ弾きは思いっきり頭上から鳴っている。
『風に語りて』
ボーカルのコーラス成分が上から聞こえてくるとドキッとしてしまう。天から降り注ぐようなフルートに夢心地になる。終盤の、まさしく周囲を取り囲むような浮遊感は効果絶大だ。
『エピタフ』
まず冒頭のティンパニーが衝撃的に轟く。この時点でコンサートホールにいるようなドラマティックな臨場感。そして前後頭上と全方位から押し寄せるメロトロンの洪水は圧巻。フロントスピーカーから浮き出るような、生々しくも幽玄な歌声。曲中、随所で強くかき鳴らされるジャラン!という特徴的なギターに毎回ドキッとさせられるのも、上からの成分が聴覚的な刺激を与えているためだと思う。
『ムーンチャイルド』
左上の彼方から響いてくる切ないギターの調べは、月夜を見上げてムーンチャイルドに想いを馳せる歌い手、という具体的な状況を描いているかのようだ。それによって音響による劇場的な空間の演出が可能であることが理解できてくる。調べにのせて歌われる夢想の情景。そしてまた月夜を見上げる。
続くインプロパートは序盤ハウリングのような音響で空間全体が満たされてゆく幻覚的世界。それが収まると左前方にはギター、右前方にはヴィブラフォン、リアにはドラム・パーカッションが配置され、しばしフリー・インプロヴィゼーションが繰り広げられる。ここで注目すべきはドラム・パーカッションで、リアだけでなくトップからもかなり音が出ている。その効果はギミック的なものではなく、まるでこの場で音が鳴っているかのようなリアルさを追求していて、時には気持ちが悪い程に生々しく聴こえてくる。
『クリムゾン・キングの宮殿 』
『エピタフ』同様のメロトロンの洪水にさらにコーラスが加わると、かなりとてつもない音響体験に晒されることになる。2chと比べるとその3倍、6chのスピーカーから荘厳なオーケストレーションが溢れ出すのだ。今までがそびえ立つ宮殿の姿を遠目に眺めていたとするならば、今回は宮殿に招かれてその内部の様子をまざまざと体感しているという具合だ。
幻想世界を描き出すフルートは雰囲気を盛り上げつつ次第にエコー成分を纏い霧散してゆく、その広がり方の演出も素晴らしい。
本作を定義するなら
一通り聴いてみて、本作は「クリムゾン・キングの宮殿」というロック音楽アルバムのマルチトラックを使用して創出した全く新しい「音響によるアトラクション作品」だと定義できると思う。さらに各楽器の分離、音質のクリアーさが極まっていて、このバンドの演奏そのものを楽しむための最上の音源となっているとも言えるはずだ。
このディスク24Blu-rayには
I Talk To The Wind ( Duo version )の4.0chサラウンドも収録されている。
Mixはもちろんスティーヴン・ウイルソン。
これはもう夢心地。
こういう、20代の若者たちがギターをかき鳴らす瑞瑞しさに、初期【ピンク・フロイド】や80年代ネオ・アコのバンド【フェルト】まで想起してしまった。
ついでに
ブルーレイ2(ディスク22)収録の『2009年版』とブルーレイ3(ディスク23)収録の『2019年版』の2つのサラウンドも聴き比べてみた。
まずはアトモス版の直後に『2009年版5.1ch』を聴いてみると、思ってたよりも随分アッサリ、スッキリしたミックス。初めて聴いたときは余りにも衝撃的だった各ドラムスの分離の具合と音質の良さも、それほどではないと感じられた。低音成分は元音源に忠実に少な目でドスドスいわない。サラウンド効果を使ったギミックも割と控えめで、基本的に左右のフロント、リアに定位したスタンダードな作り。やはり今後もこのヴァージョンを中心に鑑賞していくことになるであろうという印象。
さて、本BOXの前年にリリースされた『2019年版5.1ch』これは初聴だが、分かりやすくFatな音にしてある。低音を盛ったように太くて重く全体に音圧が強い。この人の【Yes】のサラウンドMixの仕事に通じるものがある。また、エコー成分をフロントからリアに飛ばしたりサラウンドの技巧を凝らした作りになっている。この延長線上に2020年ドルビーアトモスミックスがあることが伺えた。
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