血気盛んなブルーフォードをとことん堪能 キング・クリムゾン Starless BOX(2014) 収録のLIVE音源 計15公演を聴き倒す

2021年9月30日木曜日

[音楽] プログレッシヴ・ロック



King Crimsonのアルバム『Starless And Bible Black』(1974)のマテリアルになった3公演、
『Glasgow』『Zurich』『Amsterdam』
を中心に収録されたライブ音源、計15公演を聴き終えた。


Disc 1&2.CD Apollo Theatre, Glasgow, UK 1973/10/23
まずは、このグラスゴー公演が余りにも素晴らしかった。
当面は先に進まずグラスゴーを何度も聴くことに決めたほどだ。
初めての公式ライブレコーディングということで緊張感とともにかなり綿密な演奏。
ここでのブルフォードの、かしこまったようなプレイが好きだ。そしてミューアからの影響を自家薬籠中の物とし、この時点で独自の世界を確立している。
Disc 1『7.Fracture』はアルバム収録版以上のヘヴィネスが堪能できる。中間部にインプロ的な場面がありこれが魅力的。終盤の凄みは感激のあまり涙が滲む。
Disc 2『4.Improv : Loose Scrummy』『5.The Talking Drum』フリップのギターノイズにまずやられる。続くクロスのヴァイオリンが凄まじく、情念の宿った激し過ぎる右手に我を忘れてのめり込んでしまう。
そのまま続く『6.Larks Tongues In Aspic ( Part II ) 』は円熟のカッコ良さ。
止まらない大観衆のアンコールもフル収録なのが良い。サッカーのイングランド応援に由来するコールで最高潮に至る。こういうその場の雰囲気を追体験できる仕様は大好きだ。
ソロギターによる『7.Peace - A Theme』を経てラストの『8.Cat Food』ブルフォードの鋭くて手数が多いドラミングはオリジナルを凌駕、ワイルドなウェットンの声質が曲に合っていて「Cat Food」の連呼がカッコよく決まる。

かつての『The Great Deceiver Live 1973-1974 BOX』収録のグラスゴーは低音が強調されて高音部は抑えられていた。
一方『Starless BOX』のグラスゴーは低音は自然な重みとリアルな感触がある。高音部は解放され場面によっては耳が痛い程キンキンするがライブの生々しさを味わえる。
倍音成分が充実していることでヴァイオリンが『The Great Deceiver Live 1973-1974 BOX』とは別物というほどにリアル。

『6.The Night Watch 』は『The Great Deceiver Live 1973-1974 BOX』収録のグラスゴーと同様に、後半部をチューリッヒ音源と差し替えられている。
DGM Liveでグラスゴーのオリジナル版が配信されているということで見に行ってみると、なんと『The Night Watch』のみ単体でダウンロード可能だった。flacを落としたが100円ちょっとでオリジナル版を補完するすることができたのはとてもありがたい。多少編集が難しかったが違和感なく繋いだ完全版音源を作成できた。音質は『Starless BOX』のものに比べるとやや劣り、ヒスノイズが多めでザラっとしている。
2:08辺りで音源が切り替わるのを確認。グラスゴーのオリジナルは、ここから曲の終わりまでずっとゆっくりとしたテンポで進行。そして途中のフリップのソロがとても長い。


Disc 3&4&26.CD Volkshaus, Zurich, Switzerland 1973/11/15
全体として勢いがありロック的な荒っぽさもある。
フリップが最高峰のギターノイズの使い手であるのを確認できる。
このチューリッヒ公演はインプロに良いものがあり、クロスが得意であろう怪奇色のある世界で引っ張っている。
Disc 3『2.Improv : Some Pussyfooting』はサイケデリックな雰囲気が漂う中、次曲のイントロが幻のように浮かび上がり『3.Larks' Tongues In Aspic ( Part I ) 』へ繋がっていく。
Disc 4『6.Improv : Some More Pussyfooting』ではクロスが才能を見せる。終盤何をどうしているのか、時空が歪みそうな奇怪な音を出しまくっている。そのまま続く『7.The Talking Drum』はミステリアスなクロスの世界が静かに広がっていってさらに、フリップのギターノイズ、ドラム、ベースも一丸となって狂気的な空間を創出。
熱狂的なアンコールに応えたラスト『9.21st Century Schizoid Man』は全体として凄まじいテンションだが一番スゴイのはフリップのギター。途中、ベースとドラムだけの展開にファンク色のあるカッティングで加わってからのギターノイズの嵐。電気ショックを受けながらギターを弾いているかのような音を浴びていると総毛立ち頭がカラッポになった。

問題はDisc 4『1』〜『3』の流れ。中間部『2.Improv : The Mincer』がアルバム収録版の音源を差し込んでいるのは受け入れがたく正直聴くに耐えないので、Disc 26 Audio Curiosに収録のブート音源『6.Improv : The Mincer』を差し替えて繋いだ完全版音源を作成した。ブートの音質はくぐもっていてザラザラもしているのだが急に幽霊屋敷にでも迷い込んだか、という風情を味わえるのは一興。


Disc 5&6.CD Concertgebouw, Amsterdam, Netherlands 1973/11/23
録音は反響が大きく特にヴォーカルのエコー感が強い。楽器は立体感のある非常に良い録音で、上方向からの音までも聴こえてくる感覚がする。
演奏は4人の一体感が最高潮に達していて、強いグルーヴ感のある演奏を繰り広げている。
内容的には3公演中最も完成度が高い。
Disc 5『1.Easy Money』は中間部のフリップのソロとウェットンの渋い絡みを面白く聴いていると、次第にベースの手数が物凄いことになっていく。
後半部分を収録したDisc 6は全く隙がない。『1.Trio』での美の極致から始まって『2.Exiles』のしぶきを上げるようなドラミングと味わい深い抒情味たっぷりのギター。風のSEで始まる『3.Improv : The Fright Watch』が既に『4.The Talking Drum』と一体になっていて盛り上がっていき、ブルフォードのバスドラが凄過ぎる『5.Larks' Tongues In Aspic』まで怒涛の流れに熱狂するしかない。興奮冷めやらぬまま始まるアンコール『6.21st Century Schizoid Man』は余力の全てを出し切った感のある究極的演奏。


Disc 27&7.CD Pulazzo dello Sport, Udine, Italy 1974/3/19
ここから74年春のツアー音源。
レア曲『8.Guts On My Side』を聴くと世良公則&ツイスト『銃爪』を思い出す。 歌い出しの感じが似ているためだ。クロスのヴァイオリンが大活躍。
続く『9.Improv II』は『Trio』的な序盤から次第にサイケデリック色が色濃くなりかなり楽しめる。スペーシーな空間に心酔していると唐突に『10.Starless』のイントロに入ってしまうのはちょっと、嬉しくなかった。だがしかしこの『Starless』は未完成でありながら演奏は非常に凄みがあり、各人の気合が伝わってくる。
高音質で聴ける『13.Fracture』『14.Larks Tongues In Aspic Pt II』はどちらもアップテンポで切れ味が鋭くカッコイイ。

Disc 27収録のブートレッグ音源にラスト3曲のみDisc 7収録の高音質版をくっつけて完全版音源を作成した。
ブートの音質はかなり悪く低音域があまり聴こえないものの、それなりに鑑賞できる。



Disc 8.CD Pulazzo dello Sport, Brescia, Italy 1974/3/20
音質がいい。特にヴォーカルが良く録れている。
『7.Improv II』ギターがいきなりのハードコアノイズ。機械装置のように反復するベースとノリノリのドラム。踊れるインダストリアルノイズ。そのまま始まる『8.Starless』は前日よりも完成形に近く演奏の気合も物凄い。『9.Exiles』は曲の途中でスッと終了。


Disc 10.CD Palais Paul Videl, Avignon 1974/3/24
高音に癖があるが良い音質。バスドラの質感と低音が良く出ている。
『5.The Night Watch 』が素晴らしい出来。
ブルフォードが挑戦的、挑発的に好き放題叩きまくるスタイルが極まっている。『7.Starless』『8.Exiles』などは「やり過ぎ感」に笑ってしまう程だが、これこそがプログレ好きが求め憧れる最高のドラミングに他ならない。どんなに無茶な叩き方でもキメるところはちゃんとキメて楽曲は破綻しない。



Disc 11 Palais Des Sports, Besancon, France 1974/3/25
『5.The Great Deceiver』の暴力性が物凄いのだが終盤に失速。
『6.Improv I』は『One more red nightmare』のひな形のようなインプロで、続く『7.Starless』はブルフォードの無茶なドラミングがやりたい放題叩きまくるのにアンサンブル的には最後までバッチリ決まる。
『8.Exiles』は前日同様、手数の多いドラミングが良くて『Larks' Box』であれだけ何度も聴いたのに、またしみじみ良さを味わったりする。



Disc 12 Stadttheater, Augsburg, Germany 1974/3/27
バスドラがドスンと重く録られている。
ブルフォードの無茶なドラミングがさらにエスカレートしている。
ウェットンの声がすごく元気で抑揚を付けたり普段より歌唱テクニックを使ったりしている、反面ベースはおとなしめ。
『7.The Great Deceiver』のイントロのドラムがかなり羽目を外しているのに最後はビシッと決まる。
『8.Starless』は徹底的に好き放題叩きまくっていて、もはや遊びの領域に入っているフシもあるのだが、出てくる音と次々に繰り出すプレイは凄まじく、ドラムを追うだけで楽しめる。
『9.Exiles』もやはり手数がものすごいドラミングが魅力。



Disc 13 Halle Der Fachoschule, Dieburg, Germany 1974/3/28
『1.Doctor Diamond』今まであまり魅力を感じなかった曲なのだが、このBOXで様々なバージョンを聴いて、ここへきて遂にカッコ良い曲と感じた。
『5.Fracture』でのウェットンのベースはこれまでなかった程に強烈な音量、音色だった。
この公演の2つのインプロはどちらも優れていて聴き応えがある。それぞれ次曲に繋がる前にちゃんとコーダ感のある静かな終わり方をするのも良い。
『6.Improv I』は現代音楽的な前半と電化マイルス的展開の後半。
『9.Improv II』は幽玄でサイケデリックな前半と激しくノリの良い後半。



Disc 14 Stadthalle, Heidelberg, Germany 1974/3/29
ブルーフォードはここ数日でのやりたい放題が収拾している。
ウェットンの声は伸びが良く、いつもより激しい部分も感じられる。
インプロはどれも次曲に繋がるタイプだが内容はどれも面白味がある。
『2.Improv I』はサイケデリックさが魅力だが短い。
『5.Improv II 』は深海の洞窟を探索するような秘密めいた情景が目に浮かぶ。かなり良い演奏なのだが、どちらかというと次の『Exiles』のイントロ部分の拡張という趣きが強い。
『7.Improv III』は始まった瞬間からノリノリのファンク曲でフリップの弾きまくりを堪能できる。


Disc 15&26 Elzer Hof, Mainz, Germany 1974/3/30
ふくよかな厚みを感じる良い音質で、情報量の多さを感じさせる。
演奏は完成度の高さに加え、迫力もある。
ブルーフォードのプレイは前日よりもさらに抑えがある反面、物凄い迫力を出す場面もある。
ウェットンの声は前日よりさらに伸びが良く、さらに激しく、抑揚を伴った表現力・説得力のある歌唱を堪能できる。コブシも絶好調。
『2.Improv : The Savage』はドロドロしたサイケデリック感が魅力。
『7. Starless 』はスタジオ版に近く完成度が高い仕上がり。終盤に爆発するドラムは荒れ狂うクロスのソロとの相乗効果が凄絶。
『9.Lament』はヴォーカルがシャウト気味でヘヴィメタル寄りに聴こえるのが面白い。
『10.Easy Money』はウェットンが怒りをあらわにするような激しい歌い方が特徴。
Disc 15は『Easy Money』のエンディングからそのまま続く『Fracture』のイントロで終了。続きはDisc 26収録のブート音源『9.Fracture』『10.Larks' Tongues In Aspic ( Part II ) 』で補完できる。
完全版はドラムがドンッと鳴る部分で上手く繋いだ音源を作成できた。この2曲も音質は悪いものの、ベースが力強く録れており演奏内容は素晴らしい。


Disc 16 Jahnhalle, Pforzheim, Germany 1974/3/31
これもなかなかの高音質で楽しめる。
ベースの音量・音色共に凶悪さが極まってきた。
ドラムはここぞというところで面白い迫力のあるオカズを入れてくる。
2つのインプロはここでもサイケ&ミステリアスで良い感じ。
終盤『8.Starless』『9.Easy Money 』で盛り上がっていく流れがあるので『10.Fracture』のブツ切れが残念。


Disc 17 Stadthalle, Kassel, Germany 1974/4/1
これはマインツをさらに凌駕する内容。
音質はやや高音が弱く、特にバイオリンがくぐもっていてエコー感が強く、全体にどんよりとした雰囲気がある。しかし反面、厚みと立体感が優れていて、2chとは思えない程の奥行があり上方向からの音までも聴こえてくる感覚がある。ヴォーカルのリアルさは十分あり、ドラムは金物から低音まで良い音で録れている。
ここでのウェットンは裏声を上手に使ったり、しゃくりも多用するなど高音域の歌唱テクニックを堪能できる。
1曲目『1.The Great Deceiver』から珍しくバンドの音を感じる。この時期のクリムゾンは各人のエゴのぶつかり合いの緊張感によって成り立っている部分が多いと感じられるのだが、逆にここまで一体感があるのは稀に思う。それがこの公演の魅力になっている。
『2.Improv I』のサイケデリック感とベースがギターのように弾きまくりリードベースと化する場面が堪らない。
このライブは全曲素晴らしい内容だが『8.Starless』が特に凄い。この曲に関してはこれを超える演奏は無いのではないかと思えるほど凄い。ブルフォードの「ボールが地面に落下する時の連続音を模したプレイ」などドラミングが神がかっている。神がかっているのだがいつも以上に人間的、肉体的。終盤のバイオリンソロ~ギターソロの流れには、ただただキング・クリムゾンの発する音楽に没頭させられる。
『9.Improv III』は『Trio』的な小品。美しく、独立したインプロなのが価値が高い。
『10.Easy Money』も素晴らしい出来。渋みのあるフリップのソロが味わい深い名演。


Disc 18 Stadthalle, Gottingen,Germany 1974/4/2
ヨーロピアンツアー最終公演。ブルーフォードの疾走感のあるタイトなプレイでバンド全体が引き締まった印象。
『4.Fracture』『7.Starless』どちらもハイテンションで完成度も高い。
『8.Improv I』はミステリアスなSF世界を想起させる音楽性と長尺によるアトラクション的展開が楽しめる。


Disc 25-26 University Of Texas, Arlington, TX 1973/10/6
なんと最後に残ったのは当BOX中もっとも古い音源だった。グラスゴーの数週間前の北米ツアーから。
順番的には時を遡ってしまうが、それはそれで楽しめる。
この時点ではまだまだマイルスやハービーの影響が色濃く随所にJAZZ要素が感じられる。
セットリスト的にクロスの存在感が大きい。
時期的に曲ごとのアレンジの違いが顕著なのが面白い。特にDisc 25『5.Fracture』初期の貴重な演奏。
Disc 26『1.The Talking Drum』はヘドバンしながら踊るしかないノリの良さ。
アンコールの『3.21st Century Schizoid Man』はクールに盛り上がる。フリップのフィードバックからベース、ドラムのコンビ、フリップの弾きまくり、その全てが最高。

こういうオマケ的な音源一つでも聴いてしまうと、ついつい『Larks'』と『Starless』の両BOXから漏れた中間の時期にも興味を持たざるを得ない。まあ、すぐに手を出すことはないにせよ各BOXを飽きるほど聴き倒した後にはさらにマニアックな楽しみが待ち受けている(?)ということで商売上手なフリップ氏の術中にまんまとハマってしまっている訳である。



Starless

関連記事:
キング・クリムゾン Larks' Tongues In Aspic BOX (2012) ジェイミー・ミューア在籍期 アルバム『太陽と戦慄』完成までの軌跡を聴く
ディシプリン期のキング・クリムゾンをとことん堪能できるBOXを「購入した理由」について King Crimson - On ( and off ) The Road (2016) 
ディシプリン期のキング・クリムゾンをとことん堪能できるBOXの 『LIVE音源』を聴きまくる King Crimson - On ( and off ) The Road (2016)


Starless BOXの感想・レビューのブログ

ブログ内検索

海外版おすすめ3Dソフト(国内未発売・日本語未収録)

海外盤・国内盤おすすめ映像ソフト

おすすめ音楽ソフト

QooQ