宍戸錠 ハードボイルド6選

2022年1月10日月曜日

[映像] 邦画



2021年の夏、宍戸錠の出演する映画にハマる。
彼が主演で作られたハードボイルドな作風の6作品に特に魅力を感じた。
そのどれもが大画面で観ることでより一層楽しめる、映画ならではの映像作品だ。


『殺しの烙印』 鈴木清順監督 1967年公開 日活


この作品はもう30年以上昔、TVで観たことがあり強く印象に残っていた。
モダニズム、ダダイズムを思わせる映像表現。
生活感のない乾いた都会の質感。
どこか狂った思考、行動原理を持つ登場人物達。
殺し屋稼業という闇の世界に生きる男に関わった女達の末路。
画面の芸術性は十二分に楽しめるのだが、反面、どうにも受け入れがたいエロス、デカダンス、虚無感、など後味の悪さを伴う。奇妙な夢のような映画だ。


山本直純による暗いムードの音楽も良い。



『拳銃は俺のパスポート』 野村孝監督 1967年公開 日活


主人公はフリーランスの殺し屋。
冒頭、妙に神経質そうな態度で仕事の依頼を受ける。マンション契約の下見の体で狙撃地点に潜入して仕事を遂行する。その一連のシークエンスが余りにもカッコ良く、それら序盤の展開がクライマックスと言っても良い位だ。

しかし紆余曲折を経てのラストも凄かった。
埋め立て地での攻防は大画面での鑑賞に相応しい。
ロケーションも含め最高のクライマックスを演出している。正にハードボイルド。

この映画で重要なのはストーリーや設定などではない。殺し屋稼業を、飽くまで自分のやり方にこだわる主人公のキャラクター。その生き様を映画一本を使って描き出す。どのような局面においても彼は自分のやりかたを貫いている。時にスタイリッシュに、時に泥臭く。損得では計り切れない男の美学のような行動原理こそがこの映画の最大の魅力である。

『ルパン三世』に影響を与えたといわれる本作だが、出演者の2人が『ルパン三世 (TV第1シリーズ)』で声優を演じている。千崎役の江角英明は第2話「魔術師と呼ばれた男」のパイカルを、金子役の本郷淳は第9話「殺し屋はブルースを歌う」のプーンをそれぞれ演じている。



『探偵事務所23 くたばれ悪党ども』 鈴木清順監督 1963年公開 日活


アクションもスリルも満載のクライムものだが、全体にコメディ要素を感じる軽妙なエンタテインメント作品として成立している。やり過ぎ感のあるド派手な演出が随所にあり、スクリーンの向こう側の非現実感を盛り上げてくれる。

オリンピック直前の混沌とした東京の街並みを走るMGのオープンカー。そこから颯爽と登場する主人公。銃の腕前は超一流。カッコイイけど、ろくでなしの探偵というアンチヒーロー像を確立している。

「カジノ」「ナイトクラブ」「地下のアジト」「ゴーゴークラブ」「教会」等々……てんこ盛りのロケーションが目まぐるしく転換し飽きさせない。さらに赤や黄色のライトが妖しく灯る「ギャングの愛人の部屋」の場面は背徳的で鈴木清順らしさを強く印象付ける。

ナイトクラブで突然始まるミュージカルシーンが素晴らしくて、この映画の価値を特別なものにしている。
チャールストンを踊る星ナオミの愛らしい動作と表情の艶やかさ。投げやりな宍戸錠のダンスがまたカッコイイ。歌の部分と間奏が場面進行と巧妙にリンクしているのも見事としか言いようがない。楽しくも哀愁に満ちたディキシーランド・ジャズの音楽性が主人公に惚れたダンサーの女の心情を上手く表現している。

笹森礼子、星ナオミの2人のヒロインが登場する本作だがもう一人、初井言栄もいる。「週刊スキャンダル」を発行する雑誌社の社長だが探偵事務所に出入りして「オバチャン」などと呼ばれている。関西弁を使い酒飲んで豪快に笑うような役柄だが、本人はまだまだ若くて実は意外に可愛い。

伊部晴美によるサントラが夢見心地な気分にさせてくれる。割とえげつない場面が多い割に全体がムーディーな雰囲気に包まれているのはこの音楽によるものだろう。



『探偵事務所23 銭と女に弱い男』 柳瀬観監督 1963年公開 日活


前作の続編。日活のサイトを見ると宍戸錠の出演100本記念作なのだがソフト化はされていない。しかしながらアマゾンプライムでは配信されている。第一作とは趣きが異なりコメディ色は控えめな本格ハードボイルドの傑作である。モノクロの映像が重く暗い題材にマッチしている。

前作同様に笹森礼子、星ナオミの2人のヒロインが登場するのだが後者はなんと別の役で出演している。星ナオミ演じる組織の女は元ダンサーという設定なので、前作と同一人物にすることも可能ではあったと思う。だが、もしそうなっていたら観ていて余りにも辛くいたたまれない気持ちになっただろう。

この映画は、沖縄ルートで銃を密売する香港の組織に絡んだ複雑かつシリアスな内容だ。組織に関連する3人のキャラクターの存在によってストーリーが面白く奥深く展開する。小池朝雄演じる中国人の不気味さ。葉山良二の得体の知れなさ。星ナオミの組織での謎めいた立ち位置。それぞれがいわくありげで興味を引く。

序盤、射撃場で生じる小池朝雄とのガンマンとしての因縁。銃密売業者の葉山良二と潜入捜査官の宍戸錠という偽りの関係に次第に生じる友情関係。3人の男達それぞれのビジネス、プライド、ダンディズムが交錯、収束していくラストの展開。計算ずくの質の良いシナリオだと思う。

今作での宍戸錠の演技はシャープさが際立ち、そのカッコ良さは前作を上回る。



『野獣の青春』 鈴木清順監督 1963年公開 日活


二転三転する状況や入り組んだ設定、多彩かつ意外性のある展開で飽きさせないクライムサスペンスの傑作。終盤のスリリングな畳み掛けには圧倒される。非常に面白いけどかなり刺激が強い。神経を逆なでするような、観客への悪意すら感じさせる映画である。単に後味が悪いというよりも、いつまでもトラウマが残る感じだ。

今作での宍戸錠はかなり泥臭い役柄だが、序盤から度肝を抜かれる派手なアクションを演じている。逆さ吊りでの体を張ったシーンは肉体派の真骨頂。疲弊し切った心と身体を執念だけで動かしているようなキャラクターを見事に演じている。

エキセントリックなキャラクターの多い中、川地民夫、小林昭二の2人のサディストが登場。どちらも強烈で危険な印象を残す。売春斡旋業をしているオカマで、キレると相手の顔をカミソリで切り刻むという川地民夫の狂気の漂う目つき。

ラストで宍戸錠に電話番号について訊かれた川地民夫が何て言っているのか聴き取るのが困難だった。何度も繰り返し聴くことに時間を費やしてしまったが、たぶん「私通電話です」と言っているのだと思う。

小林昭二の加虐から次第に興奮し性愛に至る狂気。
まるで世界の終りのような謎の黄砂が吹き荒れる異様な演出。

この映画、結局は主人公の同僚の未亡人役、渡辺美佐子が全部持っていったかなぁ、と思う。

クールでアヴァンギャルドな奥村一の劇伴も素晴らしい。如何にもきな臭いギャングアクション的な雰囲気を醸し出す。



『みな殺しの拳銃』 長谷部安春監督 1967年公開 日活


映画の楽しみ方というのは人それぞれだが作品によっても様々な性格があり、それぞれ楽しみ方は違ってくる。
この作品はとってもベタなストーリーとセリフのみで展開されるので、お話の内容的には余り面白みが感じられなかった。しかし映像面では全てが見所という位、どの場面を切り取っても画になる構図の良さがあり、全体を通して楽しむことができた。


クライマックスの銃撃戦。このための映画と言ってもいい。これぞハードボイルド。
『拳銃は俺のパスポート』のラストにも全く引けを取らない美学を感じる。

口ひげ以前のつるんつるんの藤竜也がキムタクに似てるなぁ、と思った。


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