聴き始めの印象は、とにかく物凄く音が良いという事。
1曲目『ラウンドアバウト』
イントロのアコースティックギターのフィンガーノイズから、わずかに伝わる振動の繊細さに感嘆させられる。
全て聴き終えて残ったのは違和感。これがあの『こわれもの』なのだろうか?
同じ音源なのは確かだが、全く別の作品を聴いたような気分に陥ったのは奇妙なことだ。
この作品を初めて聴いたのは1980年代中盤、図書館で借りたのかレンタルレコードだったか定かではないが、とにかくそれをカセットに録音して持っていた。片っ端から70年代のロックを漁りプログレを中心にジミヘンやムーディー・ブルース辺りまで遡って聴いていた頃。
自分にとって『こわれもの』は「音質の頗る心地良く無い」作品だった。
溝が擦り切れたレコードだったろうし、カセットの録音レベルの設定も大き過ぎたかもしれない。
歪んでいて音圧が強く、とても聴き苦しいものだったのだ……
……時を経てHDCDリマスター『こわれもの』
ヒスノイズが流れる中、爪弾かれるギター。バリバリと歪が乗っかっている音質。
コンプ掛け過ぎなのかユラユラする音量と高過ぎる音圧。
やっぱり歪んでいて音圧が強く、聴き苦しい……
しかし全否定はしない。確かに迫力はある。中でも評価できるのは『Heart of the Sunrise』の例のリフ。これに関しては音が悪くても突っ込んだノリがあり捨てがたいものがある。
最初に発売されたCDも聴いたことがあったかも知れないが、現在手元にあるのはHDCDリマスター。
HDCD対応プレーヤーで再生するまでもなくズバリ音が悪いと分かる盤。マスターの状態が良くない上に音圧戦争的。
という訳で『こわれもの』は自分にとって、音の悪さを想定した上で身構えて聴かなければならないシロモノだった。
身構えた上で……これほどまでにスッキリとしたクリアーな音を出されると最初は妙な感じがする……が、2度3度と聴けばそれが当たり前になってくる。
音質
キレイ過ぎるというのも変だが、やや尖ったような線の細さがある。SACDにしてはデジタルライクな硬い質感は2002年発売のDVD-Audioを元にした音源のため、と考えれば辻褄は合うが……。全ての楽器の音を徹底的にクリアーに仕上げた結果がこの音なのだろう。
ディープな重低音も収録されており、うなりを上げるリッケンバッカーは重たい響きも充実している。
2曲目のキャンズ・アンド・ブラームスのベースシンセが非常に重たく響くのも癖になる。
バスドラもかなり重たいが脚色の無い自然な印象があり、いかにもペダルを踏んで音を出しているリアルさが良い。
サラウンドの感想
素晴らしい出来。イエスの演奏で最も重要なのは超絶技巧をアンサンブルで決めてしまう一体感。それを損なうことなく生かしつつスケールの大きなサラウンド空間に仕上げたのは見事。ドラム、ベース、リードヴォーカルは基本センターに据え、ギター、キーボードはフロントを中心に幅を持たせ、装飾的な演奏や効果音はサラウンドを生かした立体的な演出。コーラスワークはリアも大胆に駆使することで、ステレオとは比較にならないほどの荘厳な響きを実現しており圧巻。
ボーナストラック『アメリカ』
この曲は本編に比べてリアも思い切り楽器を鳴らしており、かなり大胆にサラウンド化している。全部がこのノリだったら疲れるかもしれないがラストなら楽しい。サイモン&ガーファンクルのカバーだがアレンジはこの時期のイエスそのもので、いかにも70年代のプログレ然としており、ここに収録されて全く違和感はない。
この曲の音質は本編とは趣が異なり、太さ、柔らかさがある。
『アメリカ』はひそかに人気のコンピレーションアルバム『イエスタデイズ』収録曲。
国内盤解説
片山伸さんによるなかなかマニアックな内容で一読の価値あり。既音源とのミックスの違いにかなり突っ込んだ言及があり必読と言える。
ピクチャーレーベル仕様
ロジャー・ディーンによる地球のイラストがキレイに印刷されていてトレイに乗せる度に可愛い。
なかなか気が利いている。
こわれもの(SACD/CDハイブリッド盤)
SACD Hybrid [ YES – Fragile ] (1971, 2011)
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