『マイルス・デイヴィス/TUTU』漆黒のラグジュアリー空間に艶めくマイルスのソロ [DVD 5.1chサラウンド]
2018年11月26日月曜日
1986年作
作曲はプロデューサーのMarcus Miller(マーカス・ミラー)がほとんどを手掛け演奏もほとんど一人でこなし作成したカラオケに、マイルスの演奏をオーバーダビングして出来上がった作品なのはよく知られてるところ。
音楽的にはかつてフュージョンをやっていたミュージシャンによって作られた、ヒップホップ興隆の時代を通過後のエレクトロファンクという印象。 当時のハービー・ハンコック、坂本龍一などとの同時代性を見出すことができる。
今回取り上げるのは2002年リリースのDVDマルチチャンネル版。
まずは旧規格CDと聞き比べてみる
当然ながら決定的な差が出るのが音質面。
元CDが悪いわけじゃないのに高音質なDVD版を聞いてしまうとCDはぼんやりした感じがする。
印象としてはオリジナルのCDはいかにも80年代らしいデジタルな音で密室的。
一方最高音質のDVD-audio、5.1chサラウンドの施されたこのDVDは空間の広がりと奥深さが全くの別次元なので、
一度こちらを聴いてしまうともう後戻りはできないという極上の仕上がり。
両者には単なるミックス以上の違いもある。
元のCDでは使われなかったマイルスのテイクが幾つか復活。
また7曲目『Don't Lose Your Mind』にはマイルスの音色に大きな違いがある。
CDではイコライザーやコンプの処理によるのか潰れてひしゃげたような音色が特徴的だったが、
DVDではもっと素に近い普通の音になっている。
このアルバムの楽しみ方
やはりマイルスのプレイを味わう事に尽きる。
(その意味に於いてこそ、このサラウンド版は価値が高い)
プレイの素晴らしさ。マーカス・ミラーによって作られた完璧な入れ物、最高のお膳立ありきの結果。
テクニックや音楽性以上に「間」「呼吸」マイルスが発する「音そのもの」の持つ旨味。
探りを入れながら演奏していく印象。適度な緊張感やライブ感。
それらが静かに、しかし確かに熱を帯びてゆく様は尽きることのない楽しみを与えてくれる。
各楽曲について
1『Tutu』
オケヒットから始まるいかにも80年代なデジタルサウンドにマイルスが絡む。サラウンド効果が素晴らしく、背後から来るパーカッションやノイズの幽玄さを感じた瞬間からこのミックスの虜になってしまう。
2『Tomaas』
ダンサブルなファンク。緊張感と安堵感を行き来するマイルスのプレイが印象的。マーカス・ミラーによるゴリゴリでノリノリのスラップが堪らない。
3『Portia』
深淵な音宇宙を感じさせるフュージョン。サラウンド化によりアンビエント的空間の広がりが増している。
4『Splatch』
ゲストのADAM HOLZMAN(アダム・ホルツマン)のシンセプレイが強烈。近年ではスティーヴン・ウィルソンとの活動でプログレ方面でも活躍している方。
5『Backyard Ritual』
この1曲のみGeorge Duke(ジョージ・デューク)の作曲・プロデュース。フュージョン、プログレ、ファンクと多彩かつ派手な音楽性で活躍してきた方だけど、ここではシンセポップ的なソリッドで渋い曲作り。
6『Perfect Way』
後にマイルス本人がレコーディングに参加することになる英国のバンド、スクリッティ・ポリッティのヒット曲のカバー。しかしパンク・ニューウエーブ出身のバンドの楽曲がマイルスに取り上げられるなんて。
7『Don't Lose Your Mind』
マイルスがダブをバックにプレイ。しかしいわゆるレゲエとは全く別物の曲展開は入り組んでおり、かなりスリリング。強烈なシンセドラムやアート・オブ・ノイズを彷彿とさせるサンプリング音、スピーチ風ヴォイスなどヤバい雰囲気に満ち満ちている。
極めつけはゲストのMICHAL URBANIAK (ミハウ・ウルバニャク) による何ともフリーキーなエレクトリック・ヴァイオリン。東欧の強烈なスパイス。この方はマハヴィシュヌ・オーケストラやリターン・トゥ・フォーエヴァーみたいな超絶技巧フュージョンやプログレをディグっているといつか辿り着く事もあるという作品群を70年代にリリースしているポーランド人ミュージシャン。
8『Full Nelson』
作曲はマーカス・ミラーながら、元々共同プロデュースの予定だったプリンスを思わせる陽気なファンク・ナンバー。
Full Nelsonというタイトルについては諸説あり、南アフリカ共和国の反アパルトヘイト活動家で政治家のネルソン・マンデラ氏に因んだものというのが一つ。そもそもTUTUというタイトルが反アパルトヘイト活動家で聖職者のデズモンド・ムピロ・ツツを称えてのものなので当然といえば当然である。
もう一つはプリンスの本名Prince Rogers Nelsonに因んだものという意見。
さらに言えばFull Nelsonとはレスリングなどの格闘技で羽交い締めを意味する言葉でもある。
……さらに言えば格闘技の羽交い締めに由来する性的な隠語としても使われる。
『マイルス・デイヴィス/TUTU』DVD-Audio 商品画像
Miles Davis - TUTU
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