『ピンクフロイド/狂気(1973)』ようこそ、素晴らしき狂気の世界へ [SACD 5.1chサラウンド(2003)] (後編)

2018年8月7日火曜日

[サラウンド 5.1ch 7.1ch ドルビーアトモス] [音楽] SACD [音楽] プログレッシヴ・ロック




楽曲ごとのサラウンドの雰囲気と感想のまとめ。

なお、この5.1chサラウンドは狂気(コレクターズ・ボックス)(DVD付)(2011)のDVD、Blu-rayにも収録され、
ベースの質感がSACDよりもかなり向上しているという感想もある。
さらに1973年当時作成のアラン・パーソンズによるクアド・ミックス(4chサラウンド・quadraphonic mix)も収録。


01.Speak to Me (Mason)

心臓の鼓動で始まる導入部。
アルバム全体が凝縮されたようなサウンドコラージュは、
サラウンド化で、より立体的に強烈なインパクトで迫ってくる。


02.Breathe (Gilmour, Waters, Wright)

黄昏に溺れ、たゆたうような演奏。
優しげに語りかけるヴォーカルとハーモニー。

「呼吸をしなさい」
この世に生を受けたなら、生きねばならない人間の宿命を虚無的に描く。

穴掘りうさぎとして描かれる人間の姿はいかにも滑稽で哀しい。
本来求めるべき「太陽(希望)」を忘れ地下に潜る。
あくせく穴を掘り、掘り終わればすぐ次を……を繰り返す。
それは早死に競争をしているだけだという。
自らの命を削って墓穴を掘り続けるのが人生なのだと。

英語には慣用句としてgo down the rabbit holeという言い回しがある。直訳すれば「うさぎ穴に降りる」だが、この言葉は「本来の目的から逸れてしまう」「後戻りできない悪い方向へ進んでしまう」という意味がある。さらにスラングとしては「ドラッグでハイになる」の意味でも使われているようだ。


03.On the Run (Gilmour, Waters)

うなるオルガンがリスナーの周囲を回転する中で始まる、シンセベース、ハイハットの高速ミニマルフレーズ。 この、後世のテクノを先取りしたサウンドはEMS社VCS3とSynthi AKSによるもの。

不穏で焦燥感を煽るようなSEが次々と飛び交い重なり合う様はサラウンド効果の最大の聴きどころ。 リスナーをとことん追い詰め最後には爆音で全てを吹き飛ばしフィニッシュ。


04.Time - Breathe (Reprise)  (Gilmour, Waters, Wright, Mason)

爆音が鎮まり一斉に鳴り出す時計のベル。
リアルな金属音が全方位から鳴り響き、さらなる悪夢感を演出。

イントロのタムは様々な角度から鳴らされ、濃密なサイケデリック空間を演出。

怠惰な日々を送る若者も、気が付いたときには老いてゆき手遅れになってしまう。
そんな怒りや焦燥感をヴォーカルが狂おしく表現。

デイブ・ギルモアのギターソロはリアからもふんだんに出力。
情念の滾るようなギターの洪水に包まれる。

主人公がすがり追いかけた沈みゆく太陽(希望)が、また昇る事によって示す絶望の寓話。


05.The Great Gig in the Sky (Wright)

このアルバムの価値を大いに底上げしていると思える強烈なヴォカリーズ。
ものすごい引力を持つ女性ヴォーカリスト、クレア・トリーの歌声がDSDリマスターにより見事な輪郭を持って再生される。

このヴォーカルはセンターからの主力を予想していたが、主に左右のフロントから通常のステレオのように出力されていた。


06.Money (Waters)

ユーモラスなベースに導かれる7拍子が特徴的な、アルバム中最もロック色の濃いナンバー。

レジスターの音で作られたリズムは前後左右から。
サックスソロが始まると強烈なトレモロギターが背後にも定位するミックスがユニーク。


07.Us and Them (Wright, Waters)

静けさと透明さを併せ持つ、優しくも虚ろなヴォーカルが印象的。
ムーディーに奏でられるサックス。ベースラインが美しい。
全体に広がりを持たせたミックスは、果てのない霧に包まれたような世界を見せる。

「我々……そして彼ら……」
イデオロギーの違いから争い殺しあう人間を題材とした歌詞。
サビではそのやるせなさを激しく歌い上げ、奔流のようなコーラスに飲み込まれる。


08.Any Colour You Like (Gilmour, Wright, Mason)

ジャズ・ロック・テイストなインスト曲。
高音質化、サラウンド化でより輝きを増した、リック・ライトのスペイシーかつリリカルなシンセ・ソロに包まれる恍惚感。 続くデイブ・ギルモアのファンキーなソロもインプロ的な聴かせる演奏。


09.Brain Damage (Waters)

ここからラストまで一気にアルバムのクライマックス。
嬉々とした表情にも、どこか毒々しく歪んだ世界を感じさせるサイケデリックな歌と演奏。
「月の裏側で会いましょう」
これまでも度々聴かれた不気味な男の哄笑が、内なる狂気の発露を思わせる。
後半のシンセ~オルガンが狂気の扉の向こう側の、異常な歓喜の世界を表現しているようだ。


10.Eclipse (Waters)

太陽(希望、光溢れる均衡の取れた世界)は存在する。
だがその全ては、月(闇と狂気の世界)に侵食されてゆくこともある。

"There is no dark side of the moon really. Matter of fact it's all dark."
最後のセリフと心臓の鼓動でフェイドアウト。

円環(ループ)する世界観。終わらない終わり方。
これも70年代のこの時期に顕著なスタイルのひとつ。



しばしば映像的、立体的と形容されるピンク・フロイドの音楽。
ジェームス・ガスリーが手がけた5.1chサラウンドミックスは、
このアルバムを聴く事によって得られる「体験性」をより高める事に成功している。
宇宙的音像はさらに広がり、さらに深い奥行きを得ている。


SACD [ Pink Floyd ‎– Dark Side Of The Moon ]



ブログ内検索

海外版おすすめ3Dソフト(国内未発売・日本語未収録)

海外盤・国内盤おすすめ映像ソフト

おすすめ音楽ソフト

QooQ