作品概要
元はCHAGE&ASKAの楽曲のPVとして作られたものでセリフは一切なし。
終末的世界観と翼を持った純粋無垢な少女を対比させた清濁併せ呑む宮崎監督らしい内容。
冒頭、カルト教団のビルに強行突入した武装警察による殺戮行為を描く。
無抵抗な者たちに対し淡々と任務をこなす様は彼らの非情さを強く印象付ける。
チャゲアスの二人をモデルにした警官2人は死屍累々の中から翼を持った少女を見つけ救い出す。
作戦はカルト教団が監禁していたこの少女の奪取が目的だったらしく、少女は国家によって奪われてしまう。
再び少女を救う事を決意した2人は体制に背き、物語の中でのヒーローとしての行動が始まる。
核に汚染された世界で人類が生きる道
唯一の拠り所である地下都市は一応の発展は遂げているものの、膨大なエネルギーや人工的な管理無しには存続できない世界。そこで生活する人々には極端な貧富の差が生じている。
一方、人の住めない地表は草木が生い茂り、植物の楽園となり美しく晴れ渡っている。
アイロニーによって表現される人類の末路……を思わせるが、監督は現実世界をこのように捉えていると言ったほうが正しいのかもしれない。
冒頭の飛行艇でビルに突っ込んでいく映像がとてつもない臨場感で迫ってくる!
このシーンの持つアミューズメントパークのアトラクション感を本格的に味わえた。
(実際このシーンは宮崎監督のライド型ゲーム機での体験が反映されているとのこと)
サラウンドの魅力
この作品の音響は楽曲『On Your Mark』と効果音のみで成り立っている作品。
乗り物のアクションシーンが多いため迫力ある機械音の高度なサラウンド定位が次々に楽しめる。
後半、エンジンの爆音に音楽がかき消されてしまう演出が素晴らしく、観ていて気分が高揚してくる。
ジブリ作品は映像だけではなく音響も超一級品。本当に音が良く、そのこだわりは他のアニメ作品とは格の違いを感じさせる程の素晴らしさ。
特殊な演出技法
同じ場面を繰り返しながらの進行。これは観た人によって様々な解釈がされている。主人公たちの描いた夢、パラレルワールド等々……。
ノベルゲーム好きの自分としてはトゥルーエンドへ至るための数々の試練を思い浮かべた。Keyから発売され、後に京都アニメーションによりTVアニメ化もされた麻枝准シナリオ作品『Kanon』『CLANNAD』などでは運命や時の流れをも覆した先に起こる奇跡が描かれている。
まとめ
2014年発売のBlu-ray/DVDのBOX『宮崎駿監督作品集』に収録される予定だったこの短編は、件の薬物事件の影響で削除の憂き目にあう。(後に期間限定で購入者の中から希望者に対しこの作品収録のディスクが無償配布される措置が取られた)
現時点では2005年に発売されたDVD『ジブリがいっぱいSpecial ショートショート』が入手可能。【5.1ch字幕あり・なし】【2ch字幕あり・なし】【英語版2ch字幕あり・なし】の計6パターンと映像特典としてライカリール版(淡い彩色を施した絵コンテ的なもの)が収録されている。
既発の『ジブリがいっぱいSPECIALショートショート』に11作品を新たに収録した『ジブリがいっぱいSPECIAL ショートショート 1992-2016』がブルーレイ、DVDで2019年7月17日発売予定。